青柳いづみこの大傑作
ピアニストが見たピアニスト―名演奏家の秘密とは (中公文庫)
- 作者: 青柳いづみこ
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/01/01
- メディア: 文庫
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しかしまあ、大上段に振りかぶった物言いはやめよう。とにかく読んでいて楽しいのだ。プロの音楽家なのだから当然かもしれないが、精緻な楽曲に対する理解や、ピアノ演奏の技術的な側面への言及は、具体的で目が覚めるようだし、一方で、感性的な側面を捉えて言葉にする技も巧みだ。云ってみれば知情相そなわった、優れた評論ということなのである。そしてあえて云えば、特に感覚的な深さとそれの言語化がすばらしいといいたい。個人的には、いわゆる「フランス物」というのは、こうやって聴くのか、と思わされた。
個別のピアニストの記述についていえば、ミケランジェリとアルゲリッチがことに面白かった。ミケランジェリのピアニズムというのは、年代であまり変化がないというのが世評だと思うし、自分もなんとなくそう思っていたのだが、一般のミケランジェリ観というのはあのドイツ・グラモフォンへの一連の録音が典型的にもたらしたもので、55-65年頃などはまた違うし、その頃が全盛期だというのは、なるほど、今まで自分はなにを聴いてきたのだろうと思わせる、見事な偶像破壊であった。こうなると、またミケランジェリが聴きたくなる。アルゲリッチのステージ恐怖も、同じピアニストの経験を踏まえて、説得的だ。個人的なことをいうと、アルゲリッチのピアノは奔放すぎて少々苦手だったのだが、文章に促されて久しぶりに聴いてみたら、その素晴しいことといったら。これでまた、新しい魅力を発見できて嬉しい。
バルビゼやハイドシェックは恥ずかしながら一枚のCDも持っていないが、これも買うことになるだろう。特に室内楽好きとしては、バルビゼとフェラスのデュオは、是非聴いてみたい。
いやしかし、これは著者のピアノ演奏も、絶対聴いてみないといけないな。早速通販で探そう。