オバマ以降の貧困大国アメリカ

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

話題を呼んだ前著に継いで、貧困という観点から見たアメリカをレポートしている。これを書くに当って、細部をいろいろと紹介しようかとも思ったのだが、読み進めていくうちに、アメリカを蝕んでいるものの深刻さにうんざりしてきて、嫌になってしまった。例えば、本書で指摘されているアメリカの医療制度問題は、日本ででもよく知られたことなのだが、オバマ政権になっても問題が一向に解決されないのは、アメリカの政治システム、政治風土に因るものなのではないか、それは即ち、業界団体とロビー活動のためである、ということだ。この例なら、医療保険業界と製薬会社が、厖大な金を国会議員に渡して、政治活動をさせるのである。オバマ政権も、それらに捕り込まれてしまって、現実的な策をとるという理由で、改革を自ら後退させている始末である。それどころか、医療保険業界の笑いが止まらないような解決策(?)になっているというのだ! (詳しくは本書第三章を参照されたい。)
 オバマは確かに優秀で、口がうまく、パフォーマンスも得意だ。しかしアメリカ人らも、既にオバマに期待するばかりではなくなっている。オバマ政権の誕生で、リベラル派は喜び、オバマが何かおかしなことをしても寛容だったきらいがあるけれども、彼らもまた、批判精神を鈍らせていたことを反省し始めている。日本でもそうだが、誰かひとりの御蔭ですぐに国がよくなるなど、幻想に決っているのである。
 刑務所が第三世界以上のアウトソーシング先になっているという、第四章の指摘も、驚き以外の何ものでもない。囚人なら、超低賃金でどれほど働かせようが、誰からも文句が来ないというところに目をつけるなど、アメリカ以外ではどこでそんなことに気付くだろう。これがまた、労働者の職を奪い、流れ流れて囚人の数を激増させているのだという。
 それにしても、例のロビー活動というやつなのだが、政治家にはっきりとした見返りを求めて金を渡すのは、アメリカでは賄賂にならないのでしょうか。そこらあたりが、よくわからないのだが。