「感性の人」としてのヴァレリー

ヴァレリー――知性と感性の相剋 (岩波新書)

ヴァレリー――知性と感性の相剋 (岩波新書)

一気に通読。これまで専ら「知性の人」と言われてきたヴァレリーだが、本書は、詩人の愛した四人の女性との恋愛遍歴を軸に、「感性の人」としてのヴァレリーを描き出している。(だから本書では、林達夫のいう「タイプライターで書かれた」公衆向けの散文については、最小限度にしか扱っていない。)ヴァレリーは堅実な家庭生活を送りつつ、二十歳以上も年下の恋人たちを相手に、(性愛の絡んだ)恋愛を老齢になるまで、いや、老齢になっても、止められなかったという人だったという。そして彼は、恋人たちに、生涯で合せて三千通にもなる手紙を書き送っている。多くの詩も、彼の恋愛が契機になっているし、実際に恋人に宛てて書かれたもの(エロティックな戯詩もある)も、少なくないらしい。
 さても本書は、著者の古典的な文体と、引用されるヴァレリーの言葉との混淆が心地よい。これまで、ヴァレリーの知性は自分の能力をかなり超えていたのだったが、それでも、ヴァレリーを読んでみたいという気持ちが、また強くなってきた。それにしても、ヴァレリーは文庫など、手に入りやすいエディションで、もっと出されてもよいのではないか。
ヴァレリー・セレクション (上) (平凡社ライブラリー (528))

ヴァレリー・セレクション (上) (平凡社ライブラリー (528))

ヴァレリー・セレクション〈下〉 (平凡社ライブラリー)

ヴァレリー・セレクション〈下〉 (平凡社ライブラリー)

ムッシュー・テスト (岩波文庫)

ムッシュー・テスト (岩波文庫)

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫)

エウパリノス・魂と舞踏・樹についての対話 (岩波文庫)

ヴァレリー詩集 (岩波文庫)

ヴァレリー詩集 (岩波文庫)

若きパルク/魅惑 改訂版

若きパルク/魅惑 改訂版