ポアンカレ予想の解決はいかにしてなされたか

ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者

ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者

ポアンカレ予想を肯定的に解決したペレルマンが、大変エキセントリックで、ピュアな数学者だったこともあって、この成功は数学以外の興味からしても、世間を聳動せしめた。なにしろ肝腎の論文は学術誌に掲載もされていないし(インターネットで公開されただけ)、本人に授与される筈だったフィールズ賞は辞退するし、その上、世間から行方を晦ませたりと、まあこういった具合である。ナイーヴなまでに、ピュアな数学者としての信念をつらぬいているのである。
 ポアンカレ予想の問題自体は、さほど難しい概念で記述されているわけではない。すなわち、「三次元球面と同じホモロジー群を持つ三次元多様体は、三次元球面と同相である」ということだ。勿論これだけでは分りにくいかもしれないが、本書で詳しく解説されているし、それも充分に理解できるものだと思う。(本書ではないが、宇宙に手で両端を持ったひもを投げかけ、ひもを手繰り寄せていくとき、何にも引っかからずに一点に縮められるか、などと解説されることもある。)実際、トポロジーの分野の(少なくとも)基礎的な部分は、十九世紀までの数学がわからなくとも、何とかなるようなところがある。
 それにしても、これほど単純な定理を解決するのに、百年以上の時間がかかったとは驚きだが、そのあたりの困難さを、本書はよく伝えてくれる。文章もよみやすく、なによりポアンカレ予想のむずかしさを理解できるような人が、このようなよく出来た一般書を書けるのだから、ありがたい話だ。日本のサイエンス・ライターも頑張れといいたい。