あらためて「スタイリスト」石川淳を思う

石川淳短篇小説選―石川淳コレクション (ちくま文庫)

石川淳短篇小説選―石川淳コレクション (ちくま文庫)

石川淳の短編アンソロジー。ちょっと読んだだけで、すぐに誰の文章かわかるようなスタイリストは、今ではもういなくなってしまった。石川淳の文章は、そういう意味で傑出している。読んでいると、つい著者の伝法な口調が移ってしまいそうで、例えば澁澤龍彦には、意図的に石川淳の散文を自らに乗り移させて、書いた小説があるくらいだ。本書に収められた短編は、自分は多くは初めて読むし、そうでないのも学生のとき以来なので、楽しく読めた。書かれた時期は幅広く採ってあり、戦後の爪跡が濃く、また「小説を書く」ということに極度に意識的な初期のもの(概して短すぎるのが玉に瑕。もっと読んでいたいと思ってしまう)から、歴史に題材を得た晩年のものまで、いろいろと堪能できるだろう。個人的に一作を選べば、「鸚鵡石」に指を屈したい。大阪城落城の後に時代を採った、鏡花や谷崎の『乱菊物語』を思わせる、素敵な伝奇短編で、面白いことこの上ない。長編の『至福千年』にも通じているだろう。それにしても、著者は生涯、力量を挙げ続けていったのではないか。本書を見ると、そんなことも思われる。
うつろ舟―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

うつろ舟―渋澤龍彦コレクション   河出文庫