多様体論でこんなに楽しい本が書けるとは!

エキゾチックな球面 (ちくま学芸文庫)

エキゾチックな球面 (ちくま学芸文庫)

著者のトポロジー本は、同じちくま学芸文庫に収められている『トポロジーの世界』が名著だったが、本書はそれに劣らぬ、いやそれ以上にすばらしい本である。前著がトポロジーへの入門書であったとすれば、本書はこれを受け、さらに進んだ多様体論、とりわけファイバー・バンドル理論や可微分多様体などの概説になっている。
 大雑把に云って、数学のいわゆる「教科書」を読んでいるときの不満は、定理と証明の繰り返しで、ここが重要なのだとか、こんなところに気をつけなさいとか、さらにはここがこんな風に美しいのだとか、そんな類いが書いていないことである。だから、読み通してもあまり内容のない証明だとか、重要なのにさらりと書いてあるだけの定理だとか、とにかく「風景」がわからないことが多い。もちろん専門の研究者なら、そういうことは自分で見出していかねばならないのだが、専門家でない者には、そこいらに配慮がほしいのだ。
 で、本書だが、まさしくそういったことを、トポロジーについて行なっているのである。証明はないが、といっても内容は本格的なもので、理学部の学生が読んでもおかしくないのだけれども、専門家でなくともある程度の知識があれば、多様体の世界を遊びまわる、至極楽しい読書になるだろう。個人的には、ファイバー・バンドルがどういう歴史的過程で登場してきたのかとか、多様体として見たリーマン面とかなど、とても腑に落ちた。確かにかなり難しい本ではあるが、前著ともども、合わせ読んでみると面白いと思う。
トポロジーの世界 (ちくま学芸文庫)

トポロジーの世界 (ちくま学芸文庫)