ボルヘス讃
- 作者: J.L.ボルヘス,野谷文昭
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/05/18
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (23件) を見る
まあそんなことはどうでもよいことで、ただ、本書のようなものが文学だというなら、自分も諸手を挙げて「文学好き」だと言いたい。こんなに面白い文学書を読むのは久しぶりだ。本書はボルヘス晩年の講演集で、七つのテーマについて、七夜で語ったものである。そのテーマは、「神曲」「悪夢」「千一夜物語」「仏教」「詩について」「カバラ」「盲目について」である。ボルヘスもまた、澁澤龍彦がいう「観念を物のように玩弄する」タイプの作家だ。「観念」といってもメタフィジックではなく、想像界と象徴界を蝶番のように繋ぐもので、上のテーマでいえば、「悪夢」というような、それである。また悪夢とは、博引旁証するに、何と魅力的な観念だろう。ボルヘスは悪夢をよく見るそうだが、ボルヘス自身の悪夢も、彼に引かれる他の悪夢も、洵に不思議なものである。例えば、遥か古代の、盲目のノルウェー王が、ただそこに居るだけという、ボルヘスの悪夢。彼は何を恐怖して目覚めたのか。
ボルヘスを読んでいると、迷宮の中に居るかのように、どこか眩暈を覚える。読書を中断して用を足しに行くなどすると、自分が二十一世紀の東洋の一国の、田舎の平凡な一家屋にいるのが不思議な感じがする。どういうわけか、日本だったら、澁澤龍彦の書斎にでもいなければならないような気が、どことなくする。