綿矢りさは正統派の小説家です

かわいそうだね? (文春文庫)

かわいそうだね? (文春文庫)

表題作が大傑作で、興奮した。普通の恋愛小説というか、三角関係が崩壊していく普通の小説で、書き方もオーソドックスなのに傑作とは、これは古典的名作ということではないか! 将来は、岩波文庫しかないね。それにしても、二十八歳OLについての恋愛小説が、どうしてこんなにおもしろいのだろう。あーあるあるという、リアル感だろうか。やはりそこかな。つい、主人公に感情移入してしまうのだ。しかし、未婚のおっさんを唸らせるのだから、大したものですぜ。ちょっと若い頃を思い出しましたよ。まあ、突っ込もうと思えば突っ込めるのであって、例えば二十八歳の独身女性といえば、まず結婚がどうしても頭にあるもので(とりあえず「キープしておく」というやつ)、本作の主人公はそれがまったくないのは不自然なのだが、そこは小説なので、実際そこをオミットしたせいで、展開がおもしろくなっている。最後は爽快。さてこれは男性側から見た感想だが、これは是非女性の意見を聞きたい。検索するのが楽しみである。
 それにしても、著者には才能がある。別ブログの過去の記事で、著者は取り敢えず、等身大の小説を書いた方がいいのではないかなどという感想を記したことがあるが、等身大の小説でここまでのものを書いてしまうとはねえ。大江健三郎賞も当然である。(しかし、大江さんはすごいな。若い才能を的確に捉えている。未だに第一線の小説家である証拠だ。)この後が楽しみだ。
 併録された「亜美ちゃんは美人」も、こちらは気楽に読める小説だが、なかなかいい。まあ著者なら、これくらいのものは簡単に書けるのではないか。それくらい才能があると思う。表題作もこれも、エンターテイメントとしても充分薦められるし、それだけには留まらない深さもある。綿矢りさは、正統派の小説家です。