「理性の限界」ということを考える楽しさ!

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

胸のすくような快著! 一応、アロウの不可能性定理、ハイゼンベルクの不確定性定理、ゲーデル不完全性定理を中心として、「理性の限界」を探るということだが、脇道の方にもおもしろい話がいっぱいある。まあ第二章の物理学・科学史に関しては新味が乏しいが、第一章の数理経済学(特にゲーム理論)については、個人的にあまり知識がないせいもあって啓蒙されたし、第三章の論理学・数学基礎論については、ゲーデルの定理関連の近年の発展に大いに興奮させられた。
 叙述も対話形式が見事に壺に嵌っており、高度な話題を実にわかりやすく楽しく展開してゆく手腕には感嘆のほかない。
 それにしても、理性を極限まで突き進めていった果てに「理性の限界」に到達しつつあるというのは、まったく西洋的思考の怖しさでもある。我々のすべきことはそこにはないと思う者ではあるが、そのような思考から眼を背けては、こののち生き残っていく、有用なマトリックスを造り出すことは出来ないだろう。そこが大切なところなのだ。