ケストラーのケプラー伝

ヨハネス・ケプラー―近代宇宙観の夜明け (ちくま学芸文庫)

ヨハネス・ケプラー―近代宇宙観の夜明け (ちくま学芸文庫)

異色の科学哲学者アーサー・ケストラーによる、「ケプラーの三法則」で有名なケプラーの伝記である。ケプラーの当時は惑星の軌道が円をなすことはまったく疑われておらず、周転円によるアド・ホックな微調整によって観測結果と一致させていたので、ケプラーは、軌道が楕円であり、焦点の一つに太陽が位置するという第一法則を早くから(計算上)仮定しながら、なかなか真実に到達しなかったという。また、第二法則は、いくつかの計算間違いがうまく作用して、たまたま発見されたというのが面白い。一番よく見つけたなと思われる第三法則は、惑星の公転周期と太陽からの平均距離の間に必ず関係があるに違いないという、ケプラーア・プリオリな思い込みによって見出されたというが、さもありなんと思われる。
 それから、地球ではなく太陽が公転の中心にあるという、いわゆる「コペルニクス的転回」説の普及について、なぜケプラーではなくガリレオが大きな役割を果たし、また法王庁に標的にされたのかというと、ケプラーの書は極めて判り難かったのに対し、ガリレオのそれは、画期的に理解しやすい文体で書かれてあったのが大きかったのだという。(ガリレオのその書『星界の報告』は、岩波文庫で読める。)このことなど、科学哲学のある種の議論に持ち出されそうな事実ではないか。
 この本の科学史上の側面ばかり述べたが、全体としては、ケプラーの手紙を多く引用するなど、バランスのとれた伝記になっている。占星術の徒であり(というか、近代科学に繋がっていく天文学は、ケプラーの師チコによる占星術の精密化から始まったのだ)、中世の雰囲気にどっぷり浸かった、転換期の人物といったところであろうか。ガリレオの忘恩ぶりなども興味深かった。
星界の報告 (1976年) (岩波文庫)

星界の報告 (1976年) (岩波文庫)

ケプラーの夢 (講談社学術文庫 (687))

ケプラーの夢 (講談社学術文庫 (687))