阿部謹也による中世ヨーロッパの根底

中世を旅する人びと―ヨーロッパ庶民生活点描 (ちくま学芸文庫)

中世を旅する人びと―ヨーロッパ庶民生活点描 (ちくま学芸文庫)

中世ヨーロッパの土台、根底に迫ろうとした本だ。例えばいきなり「道」。耕作の基本が水田である日本では、道はもちろん固定してあったものだ。しかし中世ヨーロッパではそうではなかった。三圃農法のために耕作地は毎年移動し、季節により、また年毎に道は村の中で新たに設定されたというのである。それが、道路が固定的な、中央集権的なものになっていくにつれて、村落的な共同体が崩れ、個々人が直接国家に掌握されていくことになる。
 また、乞食やロマ人(ジプシー)の存在に対する/からの眼差し。キリスト教の浸透に伴って、施しのために乞食の存在が必要になったというのが面白い。中には、乞食を職業とした「したたかな乞食」というような者まで現れたという。一方、中世末期の社会不安の中で、ジプシーはヨーロッパ中で疎まれた。これが、あまり知られていないことであるが、二十世紀のナチスによる虐殺にまで続いていく。何故ジプシーは放浪するのか。ジプシー自身その答えを知らない。「さっさと立ち去ることによって、満されない願望に対する切なさがのこるから、それだけその土地の思い出を大事にすることができる。」本当だろうか。