堀江敏幸のエッセーは上手すぎるか

回送電車 (中公文庫)

回送電車 (中公文庫)

どこかノスタルジックで取りあえず無用。著者の文章は、小説でもエッセーでもそのような印象を与えるが、このエッセー集を読むに小説との違いは、その鮮やかな技巧である。実際淡々と進んでいく著者の小説に対して、わずか数枚の短文にどれも凝らされた趣向の連続に、上手いという声を挙げざるを得ない。むしろ上手すぎるといいたいほどで、お腹いっぱい、ゆるゆると読むに如くはない。しかし、著者は自分の文章を無用と規定するに急であるが、どこか、癒しのための高級セラピー用品と受け取られている節もないではない。そんなことを言うのは意地悪であろうか。松浦寿輝は著者についてこう述べている。「この独創的な文章家を小器用で重宝な短文書きのように遇して、四枚の書評だの六枚のコラムだのをせっせと書かせつづけている現在の文芸ジャーナリズムは間違っているし、彼に対して失礼だと思う。」