パスカル伝

パスカル伝 (講談社学術文庫)

パスカル伝 (講談社学術文庫)

著者のパスカルについての敬愛が滲み出たような、深い感銘を与えられるパスカル伝。こうやってパスカルの生涯を俯瞰してみると、科学者や数学者としてのパスカルより、キリスト教徒としての彼の方が、意義深い存在であったように思われる。(勿論、科学者・数学者としての幾何学的精神と、信仰者としての繊細の精神を兼ね備えていた点が、彼を独特の存在にしていることは確かではあるが。)彼は聖職者ではなく、世俗者であるにもかかわらず、あまたのキリスト者の中でも、恐らく第一級の霊性を有していた者であることは疑いない。それは、この本のあちらこちらから感じられることであり、また感銘を与えられる事柄でもある。
 しかし、パスカルが最高のキリスト者の一人である、ということの一方でとても気になったのは、その高邁なキリスト教徒であるということそのものの性格である。簡単に言ってしまえば、最高のキリスト者というものは、これほど(殆ど「卑屈な」と口走ってしまうほど)までに、神に拝跪しなければならないのか、ということである。今たまたま、ドゥルーズの『ニーチェと哲学』を読み進めているのだが、ニーチェキリスト者を糾弾して已まないのは、まさしくその点にあると思えるのだ。(「十字架に架けられた者 対 ディオニュソス」。)原罪を犯し、イエスを十字架に送った人類は、すべて罪深いものであるという発想。正直言って、パスカルほどの人が、かほどに自らを貶めねばならないのか、という気持ちが、どうしてもするのである。(この点に関しては、他の宗教、特に我々は仏教についてとの、さらなる詳しい比較が必要であろうが。)
 なにはともあれ、もう一度『パンセ』が読みたくなったし、また『プロヴァンシアル』もなんとか入手して読んでみたくなった。後者など、岩波文庫あたりに入っていてしかるべきだと思うのだが。
ニーチェと哲学 (河出文庫)

ニーチェと哲学 (河出文庫)