福田和也の「闘う書評」

闘う書評

闘う書評

自分は福田和也のあまりいい読者とはいえないかも知れないが、それでも、いつ、何を読んでも、感心しなかったということがない。読むたびに、精神の豊かさ、厳しさを覚える。豪奢、という形容をしたくなる、現代で数少ない書き手の一人である。
 特に、濫読家の自分としては、氏の書評、書物関係の文章が好きだ。文学の読み方というものをいつも教えてくれる、得がたい人である。この本でも、いま話題になっている作家の読みなど、まったくおもしろかった。例えば綿矢りさの評価など、『蹴りたい背中』はその才能をほとんど絶賛しているが、『夢を与える』の出来は疑問符つきである。どうやら芥川賞受賞後に河出書房新社が「抱えて」しまったらしく、筆力の衰えがみられるというのだ。また、氏の高く評価する村上春樹だが、『アフターダーク』は肩透かしをくらったとか。(自分の感想もまったくその通りだった。)
 それ以外、政治や経済などの本についても、ぶれない評価と博識で、まさしく「役に立つ」ほどである。全体を通していえることだが、なによりここで紹介された本が、実際に読んでみたくなってくるのが素晴しい。これこそ、批評家の一番の美質だと思うのだ。
蹴りたい背中

蹴りたい背中

アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)