学者の手になる歴史読み物として、よい出来だと思う。
西洋史に興味のある人なら楽しめるのではないだろうか。
ハンニバルという人は、戦略家として歴史上傑出していたのは勿論のこと、政治家としても一級だったのだと分る。あえてローマを攻略しなかったのも、もしそれをすれば、ローマは死に物狂いになるであろうから、危険な賭けになるというのが著者の解釈だ。これも政治家的なセンスだと言える。第二次
ポエニ戦争の敗北後、アジアへ渡って反ローマ的活動に従事し、最後は邸宅を包囲され、毒を飲んで
自死したという。ローマが世界帝国になっていったのは、その後のことだった。
それから、
ハンニバル研究史の話だが、
第二次世界大戦後、
ナチスの反
セム主義=
反ユダヤ主義のため、
セム系の
カルタゴ人である
ハンニバルに対する西洋人の見方がどうしても屈折したというのは、興味深かった。