ラクロ『危険な関係』

危険な関係 (角川文庫)

危険な関係 (角川文庫)

男女の関係に、確かに駆引きの要素はある。場合によっては、それが相当の部分を占めることもあるであろう。それにしても、ここに見られる、色事をまったく理詰めで行っていく展開を読んでいると、いかにもフランス人だなあとの感を抑えがたい。息詰る、サスペンスと呼びたいほどの緊張感を持った、書簡体小説の古典的傑作である。フランスの書簡体小説といえば、あのルソーの『新エロイーズ』があるわけだが、この『危険な関係』と比べれば牧歌的なものだ。文学史的にいえば、これはスタンダールに繋がるといえるのだろうか。純朴な女の征服、手練手管の男女の散す火花、策士策に溺れる結末。ラクロはこれ一作の作家らしいが、職業作家でもなく、これほどの名作、以って瞑すべしであろう。また、竹村猛の翻訳が見事であることも言っておきたい。翻訳小説という感じがしないくらい、こなれた訳文になっている。