モームの短編の魅力

モーム短篇選〈上〉 (岩波文庫)

モーム短篇選〈上〉 (岩波文庫)

モームの短編の魅力を堪能させられた。ストーリー・テラーといわれるモームは、短編の書き方をモーパッサンに学んだというが、起承転結がはっきりし、必ずきちんと落ちがつくという、お手本のような短編が並んでいる。人生と人間をよく知った、作者のどことなく皮肉なまなざしが、文章にピリリとした風味を添えている。こういううまく作られたお話の魅力というのは、どこにでもありそうで意外とないものだ。とにかくおもしろく、導入(これが巧みだ)から結末まで一気に読まされてしまう。
 モームの読みやすい文章を見事に日本語に移した、訳者にも脱帽。短編の選択もいい。考えてみると、中野好夫から始まって、モームは訳者にも恵まれていると思う。下巻がなんとも楽しみだ。