ヘーゲルの『精神哲学』

精神哲学 上 (岩波文庫 青 629-3)

精神哲学 上 (岩波文庫 青 629-3)

精神哲学 下 (岩波文庫 青 629-4)

精神哲学 下 (岩波文庫 青 629-4)

ヘーゲルというと何となく無味乾燥というイメージで、こんなに面白いとは思ってもみなかった。マルクスなどが熱中したわけである。ヘーゲルに拠れば、精神は主観的精神から始まって、客観的精神を介し、絶対的精神と高まっていくのであるが、最初の主観的精神の記述が、もっとも興味深い。ヘーゲルは精神と物質の浸透し合う、いわば汽水域の存在をよく弁えており、そこからの距離感というか、パースペクティヴは見事である(いってみれば、その汽水域から離れるほど、精神の純度と段階が高まっていくという構図である)。ヘーゲルははっきりと唯物論に不満を呈し、観念論者であることを宣言するのであるが、ほとんど、徹底化された唯物論の裏返しともいえるほどだ。精神の現象学は要約なので、金子武蔵の『ヘーゲル精神現象学』で補っているが、この本もすばらしいので、金子訳の『精神現象学』にも目を通さなければなるまい。
ヘーゲルの精神現象学 (ちくま学芸文庫)

ヘーゲルの精神現象学 (ちくま学芸文庫)