また赤瀬川原平と山下裕二がやってくれました

京都、オトナの修学旅行 (ちくま文庫)

京都、オトナの修学旅行 (ちくま文庫)

最近は「和物」が流行りであるから、抵抗感は随分となくなっているかも知れないが、それでも特に若い人などまだ、「日本美術」にいきなり親しいという人は、さほど一般的ではないのではないか。かくいう自分も、二十代の頃は、西洋美術ばかりに目がいっていたと思う。赤瀬川さん風にいうと、日本美術にはキラキラ感のようなものが少なく、どうしても一見して地味に思われてしまう。それからもっと大事なことに、これも本書で赤瀬川さんが言っているのだが、概して西洋美術は個性が全面に押し出されてあって、こちらがなにもしないでも訴えかけてくるようなものだが、日本美術には一種の匿名性のようなものがあって、こちらから積極的に働きかけていかないと、なかなか姿を顕わさないところがあるのだ。
 そこのところを前著の『日本美術応援団』もうまく伝えていて、自分の中の日本美術像に新しい風を吹き込んでくれたものであるが、本書もまた、京都の名所を今の目で、楽しく観るコツを教えてくれる、得がたい本である。京都の修学旅行は、オトナになってからに限るのだ。個人的なことをいうと自分は学生時代が京都だったので、本書の名所はけっこう行っているのだが、なかなか山下さんや赤瀬川さんのように、知識を持ちながらも自由な眼をもって観ていなかったなあと思わされた。
 それにしても、自由は笑いを誘発するとみえて、この本を読んで楽しく笑わされない精神というのを、想像することができない。清水寺の、紙垂(しで)を持ったあのウサギは、いったいなんだろう。それから「御所の細道」だが、自分もかつてあれを自転車で通ったことがあるのは、本書を読んでみると、ちょっと誇らしいくらいなのだ。これこそ「観光」である。
日本美術応援団 (ちくま文庫)

日本美術応援団 (ちくま文庫)