ケルアックよ、以て瞑すべし

元祖ビートニクであるケルアックの小説は、主人公が滅茶苦茶に全米を旅する様子を描いた、有名な『路上』があるが、本書もそれ以上に面白い小説になっている。実際、最近、これほど魂をゆすぶられた本もない。物質への欲望に肥大しきった五十年代のアメリカに、本当に生きることとは何か、魂の真の姿とは何か、ということの探求に目覚める若者たちがあらわれるが、その生き様を活写してあますところがない傑作である。印象的なのは、本書の主人公や、準・主人公ともいうべきジェフィ(ゲーリー・スナイダーのこと)が、まるで初期の仏教徒のように、自然の中に入っていき、そこから途轍もなく貴重なものを掴み捕っていく姿である。それだけに、年譜を読んで知るその後のケルアックの生涯は、衝撃的だ。『路上』と本書で一躍有名になった著者は、それまであれほど高い境地にいたのに、孤独になり、自らが生み出したともいうべきヒッピーたちを否定し、挙句の果てはアルコールに溺れて、若くして死んでしまうのである。主人公が得た「悟り」は、本物だったということに確信があるが、名声の中で、それを得なおすことができなかったのだ。まったく、現代人の背負っている「業」とでもいうべきは、なんと深くて怖ろしいものであることか。しかし、ここで活写されている「ダルマ・バム」たちはなんとも魅力的である。彼らのような生き方は到底できない自分でも、結局好き勝手に生きた愚か者の最後だよ、などとは決して言いたくない。今の世界、周りが殆どすべてヴァーチャルなもので覆われている現代にあって、なんとか死中に活を見出す方法はないものか、と思われてならない。

「だがなあ、アルヴァの奴が言ってたけど、おれたちは、一生懸命東洋人になりたがったり、坊主の格好したがったりしてるが、向うの実物の東洋人の方じゃ、シュールレアリズムだとか、チャールス・ダーウィンだとかばっかり読んでて、西洋の背広を着て有難がってるそうじゃないか」
「ああ、いずれにせよ、東と西は出会うわけだよ。なあ、東と西が遂に合体する時、どんな世界大革命が起るか考えてもみろよ。その仕事を、おれたちは今ここで始めるのだ」

路上 (河出文庫 505A)

路上 (河出文庫 505A)