松浦寿輝の幻想短編集

あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫)

あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫)

松浦寿輝の魅力は、そのモダンでスタイリッシュな文体にある。この連作短編集も、文体の魅力と小説技法的なうまさだけで充分に読ませる。東京を舞台とする、陰惨な感じを与える幻想短編が三つ並んでいるが、特に真ん中の「鰈」が、落ちぶれて殆ど廃人と化した初老の男を描いて、陰惨極まっている。三篇は一応関連づけてあるが、お遊びのようなもので、ボロメオの輪だとかラカンだとか口走っているあとがきは蛇足だろう。