このケルアックも…

孤独な旅人 (河出文庫)

孤独な旅人 (河出文庫)

このケルアックも、いま一つというところ。これなどを読んでいると、もしかすると『路上』や『ダルマ・バムズ』の天衣無縫なケルアックが、特別だったのかも知れないなという気もする。ここで見られるのは、西洋の文学伝統を意識し、そこに新風を吹き込んでやろうという作家の姿である。山岳火災監視員の体験を描いた「山上の孤独」は、『ダルマ・バムズ』のラストのエピソードと重なるところがあり、またよく似た書き振りであるが、やはり『ダルマ・バムズ』の方が精彩があるように思う。あの軽やかさがなくて、全体的に文章が重い。
 訳文であるが、恐らく原文の調子を出すためであろう、読点が少ない文体になっているけれども、単に読みにくいだけになっている部分もあって、それは残念だ。
 それにしても、『ダルマ・バムズ』であれほど光彩を放っていた仏教は、ケルアックにとっては所詮その場限りのものだったのだろうか。やはり、彼はカトリックの作家だったのか。
※(ケルアックについては、id:obelisk1:20081021,id:obelisk1:20081028なども参照。)