自由主義の再検討

自由主義の再検討 (岩波新書)

自由主義の再検討 (岩波新書)

少し古い本であるが、社会思想の初学者にとっては判りやすくコンパクトで、いい本だった。著者は、自由主義を厳密に定義するのではなく、経済的には資本主義、政治的には議会制民主主義を基本とする社会思想として、ゆるやかに捉えている。そのような観点から、私有財産が西洋においていかに肯定されていったかを述べたのが、第一章である。ここではとりわけホッブズ、ロック、アダム=スミスなど、イギリスの思想家たちが中心になっている。功利主義の文脈で、倫理面の解説が適宜取り上げられているのも有難い。
 それに対し、私有財産の否定である共産主義(著者は社会主義の語も同様な意味で用いている)を、マルクスを中心にして述べたのが第二章で、これもまたクリアに記述されている。
 第三章は、ロールズノージック、ドゥオーキンなどの現代の自由主義論者を取り上げ、コミュニタリアニズムを紹介して終っている。著者の同情は、この最後者にある。
 第三章から、興味深かった部分を脈絡抜きで引用しておこう。
「今日のおおかたの社会科学が、意識的にせよ無意識的にせよ功利主義をみずからの価値前提としていることは明らかであろう。」
ロールズ、ドゥオーキン、ノージックのいずれも、このうち善(the good)への問いを各人に委ねつつ、もっぱら正(the just)のみを行為や制度の判断基準として立てるのである。」
「あらゆる社会と同じく今日の社会においても、さまざまの不平等も存在し特権も存在する。にもかかわらずそのような社会で、価値相対主義を唱えることは、結局のところ、既存の不平等や特権を放任し、時には隠蔽し、結果的にそれを擁護することにならないであろうか。」
「J・ハーバーマスは、今日における世界像の分裂を前提としながら、もはやいかなる実質倫理も不可能とし、今日可能な唯一の倫理は意思疎通倫理であるとした。」