オスカー・ワイルドの短編

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)

オスカー・ワイルドの短編童話集。この中では「幸福な王子」が最も有名だろうが、お涙頂戴もので、ワイルドらしい毒は感じられない。しかしその他は、童話の体裁は藉りているけれども、一筋縄ではいかない、残酷さとでもいうべきテイストを持った作品になっている。一応ハッピー・エンドになっている作品もあるが、「忠実な友達」のちょっと鈍い善人ハンスなど、友人と称する、最低の人間たる粉屋に騙されてこき使われた挙句の果てに野垂れ死んで、何の救いもない。「王女の誕生日」では、初めて鏡を見て、自分の醜さに悶死してしまう侏儒に対し、侏儒の愛した王女は彼に何の同情も寄せないのだ。どうもワイルドの短編には、善人と悪人、高貴と下賤といった、二項対立のパターンがあるようで、そのダイナミズムで話が進んでいくという構造になっているものが多いのである。
 それから文体だが、宝石や香料、植物、鉱物といったエキゾチックなものの名を多用するところなど、原文はさぞ華麗な散文になっているとおぼしいが、翻訳ではあまり効果が出ていないのは残念だ。その装飾性は、若い頃のサマセット・モームが、若気の至りでつい真似をしたくなった(そして『魔術師』を書くのだが)というものなのであるが。
魔術師 (ちくま文庫)

魔術師 (ちくま文庫)