ふたたびモーム短編集

モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)

モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)

上巻について書いた感想(id:obelisk1:20081007)とそれほど違いがあるわけではないが、これもきちんと落ちのついたお手本のような短編ばかりで、とにかく読んでおもしろい。人によっては通俗というかもしれず、また気晴らしにはいいなどともいうかもしれないが、気晴らしにしたところで、あの林達夫だって楽しんで読んだというモームであるから、そんじょそこらの気晴らしではないのである。モーム自身は西洋文化の厚みをよく知っている人であり、また人生経験の豊かな人でもあるから、大人が楽しむことのできる短編集だということは強調しておきたい。
 それにしても、晩年になってもこれほど質の高い作品を残しているのには、驚かされずにはいられない。また、最晩年の作品には辛辣さばかりではなく、意外なやさしさが出てきているのは興味深い。