- 作者: 池澤夏樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/03
- メディア: 文庫
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著者は「エコロジー」や「地球にやさしい」なんて言葉は使っていないし、多分嫌いな言葉だと思うが、何もいわずにその実質は実行している人だし、自然とつきあうというのが貴重な知識だということを、知っている人でもあると思う。著者はこんなことを述べている。
「かつて山暮らしは一つの文化だった。山菜の採りかたや時期、採ったものの処理、狩の技術、木の実の食べかた(クルミやクリはそのまま食べられるが、アクの強いトチなどは手間をかけてアク抜きをしなければならない)。夏は炭焼き、渓流のイワナ釣り、秋になればキノコ採り。ブナの林は実に多くの実りを用意して人間と動物たちを養ってきた。そういうものすべてが失われてしまった。それどころか山そのものがなくなろうとしている。古いものが消えてゆくことを単なるノスタルジアから哀惜しているわけではない。千年がかりで作られた知識の体系が失われようとしているのは、ちょうど大きな図書館が燃えているのを見るようなもので、いかにももったいないと思うのだ。」
このような知識は、一度失われてしまえば、回復することは難しいし、なぜ大切かといえば、リアルと触れ合う貴重な技術だからだ。逆説的にみえるかも知れないが、我々が外界から受け取る情報量は、情報化時代になり、ますます減ってきているのだ。それは、リアルが失われつつあるからである。「自然」という言葉は今、甘ったるい響きを帯びてしまっているが、それとは別に、これに力強い意味を付与する努力が、必要なのだと思う。