檜垣立哉の見事な『ドゥルーズ入門』

ドゥルーズ入門 (ちくま新書)

ドゥルーズ入門 (ちくま新書)

初期ドゥルーズの「通俗化」(著者自身の言に拠る)を企てた、きわめて明快な入門書である。少なくとも自分には難解だった初期ドゥルーズが、ここまで図式的に理解できるとは驚きだ。特に、第三章までの「潜在性の生成システム論」は、ベルクソンの強い影響の下にありつつ、「自分の経験になることのありえない経験を、『表象』するのとは違うかたちで『知っている』」ということを、「潜在性」(virtualité)という術語をもって展開していく様子を描いている。そこから、『差異と反復』を中心に、「内包的」「微分」「一義性」「理念」といった重要なタームが判りやすく説明されていくのは、まったく見事というほかない。
 (しかし、『意味の論理学』を解説した第四章以降は、自分には判りにくかった。これは多分、当方に問題があるのだと思う。実際、『意味の論理学』そのものが、自分には『差異と反復』よりかなり難解だったこともあるし。)
 それはそれとして、あと自分が勝手に思ったこととしては、「生成」について、DNAは「同一性」で、ドゥルーズのいうような「潜在性」ではないように思われる、ということだ。例えば一卵性双生児を見てもわかるように、DNAの同一性は、塩基配列が展開されて、(いくら一卵性双生児とて二人ともまったく同じではないと云ってみたところで)形態の同一性を齎しているようにしか見えない、ということである。これは到底、無限に畳み込まれた襞だとは云えない。これはやはり、「メジャー科学」の方に分がある一例になってしまうのであろうか。無論、このような重要なことはとうに議論されているであろうが、無知な者の独り言として、記しておく次第である。
差異と反復〈上〉 (河出文庫)

差異と反復〈上〉 (河出文庫)

差異と反復〈下〉 (河出文庫)

差異と反復〈下〉 (河出文庫)

意味の論理学〈上〉 (河出文庫)

意味の論理学〈上〉 (河出文庫)

意味の論理学 下

意味の論理学 下