玄侑宗久による現代日本の「死者の書」

アミターバ―無量光明 (新潮文庫)

アミターバ―無量光明 (新潮文庫)

これまで読んだ著者の小説では、著者を思わせる僧侶が主人公だったが、本書の主人公は末期癌を患った老婦人で、彼女が死に至るまでを、一人称の語りで綴っている。中沢新一の行き届いた解説にもある通り、現代日本における「死者の書」の試みであり、臨死体験にあるような死の体験(?)を一人称で書くというのは、これは面白い企てだと思う。もちろんいつものような坊主も脇役で重要な位置にあるが、いつもながらの死の物理学的な解釈も痛快で、実は本書はうちの母も読んだのだが、まったく物理音痴なのにも拘らず、このような記述がとても新鮮に思われたらしい。してみると、現代日本に仏教を甦らせようという著者の試みは、ますます貴重だということになるだろう。中沢に拠ると、著者は「この本を書くことで、ずいぶんと功徳を積んだ」ということらしい。なるほどな。