中村光夫の谷崎論

谷崎潤一郎論 (新潮文庫)

谷崎潤一郎論 (新潮文庫)

谷崎潤一郎は確かに古いし、この中村光夫も古い。しかし、谷崎の古さは自分にはおもしろいのだが、本書の中村はまったく詰まらなく感じるのは、どういうものであろうか。著者は谷崎の上に立ち、彼の「思想」の浅さにもかかわらず、自分の資質に忠実であった、谷崎の勝利と限界を論じるというような書き方をしているが、ここには、自分が感じた谷崎のおもしろさの核のようなものが、まったく感じられないのだ。結局それは、一種の「美」であって、そもそも論評し得ないものなのかも知れない。著者は谷崎の思想の「幼稚さ」をいうが、そんなことをいえば著者の「思想」はどうかというと、現代の目で見れば、うんざりするほど浅はかに見えるのはどうしようもないであろう。結局、このような型の評論の寿命が尽きたのであって、それを超えるだけの魅力が本書にはなく、それはまた、(既に言い古されたことではあるが、)モダンの終焉などという問題にも、係ってくることであろう。