森敦の初期短編

酩酊船 森敦初期作品集 (講談社文芸文庫)

酩酊船 森敦初期作品集 (講談社文芸文庫)

『月山』の作家の初期短編集。表題作の「酩酊船」は、著者二十二歳の時の、文壇デヴューの伝説的な作品であるが、小説を書くということにとても意識的な作で、これが後年『意味の変容』に繋がっていくのかと思うと、作者の早熟に目眩がするほどだ。それから、本書に収められた作品はすべて文体が異なるが、それぞれの作に短からぬスパンがあることを思えば、自然に文体が変化したのか、それとも自在に操っているのかはちょっと分らない。ただし、それぞれ文体と内容には関連は確かにある。しかし、このような自意識が、一見それとは反対なような『月山』など、晩年の作に繋がっていくのだから(それも『意味の変容』などという高度な小説理論を背後にしながらである)、日本語による小説家としては極めて特異な点に感銘を受けざるを得ない。
月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)

月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)

意味の変容 (ちくま文庫)

意味の変容 (ちくま文庫)