ポオ評論集

ポオ評論集 (岩波文庫)

ポオ評論集 (岩波文庫)

「大鴉」(本書では単に「鴉」)の詩作の過程を詳しく語ってみせた、有名な「詩作の哲学」がやはり面白い。訳者はポオ一流の「作り話」という説を支持しているようだが、たとえこれほど極端にではなくとも、ポオが詩作というものを意識化しようとしていたことは、これは確かなことだと思う。ポオの人工的世界は、詩に限らず、そのようなインスピレーションの組織化なくしてはありえなかった筈だ。
 それにしても、他の詩人に対する批評で、嫋嫋たる抒情詩も(優れたものであれば)絶賛しているのは、意外だった。何となくポオとは肌が合わなそうなディケンズについての批評などをみても、ポオの感性の幅広さが印象的である。これを見ると、ポオを単に「グロテスクとアラベスクの」作家と言ってしまうことはできないように思われる。