今西進化論

自然学の提唱 (講談社学術文庫)

自然学の提唱 (講談社学術文庫)

著者晩年の、今西進化論の総まとめや、軽いエッセイなどを収録する。今西進化論とダーウィニズムとの一番の違いは、ダーウィニズムの進化が「個体」のそれなのに対し、今西のは「種」の進化だというところにある。実際、個体の変化が重なって新たな種になるというのは、無限の中間種を必要として、ほとんどありえないように思われる。生殖の面を考えても、多数の個体が一気に同じ方向に変るのでなければ、新たな種など出来っこない。ただ、それがDNAレヴェルでどう表現されるかである。著者のいうように、「変るべき時に変るべくして変る」というのでは、多くの学者は説得できないだろう。著者の言い方ではちょっとオカルト風にも聞こえてしまうが、果して真相はどの辺にあるのか。進化の(ほぼ)中立説との相性はどうなのかも気になる。しかし、「利己的な遺伝子」説なんぞよりは、今西進化論ははるかにマシだと思う。ダーウィニズムに強烈な「否」を突きつけた(と自分は思っているのだが)ファーブルがもし今西説を知っていたら、「案外いいところを射ている」と思うような気がする。