西チベットの密教文化探検

著者は毎日新聞の記者で、一九七九年、高野山大学のチームの行う、西チベットのラダックを中心とする地方の、密教(仏教)文化の調査に同行した。本書はその記録であり、また、読んで楽しい一種の探検記にもなっている。個人的に探検記は好きで、ヘディンなどはとても面白く読む方だが、本書は記述が生き生きしていて、探検の苦労も楽しみも共によく感じられ、時の経つのも忘れるくらい熱中できた。
 ラダックは、西チベットといっても中央アジアであり、近代に入って引かれた国境線のため、今ではインドに属する。チベット本国が中国によって占領封鎖されてしまったから、ここに残るチベット密教の文化は、大変貴重なものになっている。金剛界マンダラの文化遺跡がたくさんあり、その少なからずが消滅しかかっていて、重要な調査となった。移動手段は徒歩がかなりの割合をしめていて、厳しい自然の中、嘗てのシルクロードの旅が偲ばれる。土地の人たちはおおむね親切で、インドに留学している土地の有力者の息子が隊に加わってくれて大活躍をする(好漢なのだ!)ところなど、ちょっと感動的であった。そうそう、著者の仏教・密教に関する知識も、隊長(これが松長有慶氏なのだ)にレクチャーを受けなどして立派なものであり、こちらも教えられることがいっぱいだった。これはまことに楽しい本である。