多田は大正時代に、学僧として
チベットに十年ほど滞在した人物で、帰国時に、日本に大量の仏教文献(
チベット大蔵経)を持ち帰っている。
帝国主義の時代背景があって、日本は大陸を窺い、イギリスや中国、ロシアが
チベットを狙っている頃にあたり、その中での滞在であった。本書にも度々あるが、
ダライ・ラマ十三世と親密な関係があり、ラサでは色々と便宜を図ってもらっている。恐らく、学問的に
チベット仏教を研究した、
濫觴に当るのではないか。本書は、牧野文子による聞書きをまとめたもので、身の丈のことが書いてあり、記述が具体的で生き生きとしていて、面白い読み物になっている。多田を
河口慧海と比べてみるのも、また興味深いのではないか。