高瀬正仁の「わたしのオイラー」
- 作者: 高瀬正仁
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/07/08
- メディア: 文庫
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副題にもあるように、本書は、著者なりのオイラー像を語ろうとしたものだという。周知のごとく、オイラーは、ガウスと共に、近代数学のすべての流れの発出点である高峰であるが、その膨大な業績(現時点ですら全集は八十巻ほどもあり、百年たってもまだ完結していない)の中から、無限解析(微積分)、数論、対数関数の多価性に絞って、数学が生まれてくるまさにそこのところに、焦点を当てている。特に数論と、対数についての部分がスリリングで、「数論はこんなところ(ディオファントスへのフェルマのコメント)から、オイラーが接ぎ木して始まったのか!」という感覚がおもしろいし、対数の多価性というのは、現代の教科書にスマートに記述されている*1のと殆ど反対から、オイラーが粘り強く生み出していった概念なのだというのは、感動的ですらある。その、暗中模索しながら、崩れないよう煉瓦を積み上げていくかのような建築の過程は、ぴたりと完成するや、美しさすら感じさせる。記号論理学などでは数学はトートロジーだとされるが、こういうことをいう奴は何もわかってないのだ。実際、数学は単なる論理的導出ではなく、途中でさまざまな新たな概念を導入したり、理論が豊穣になるように(「上手くいく」ように)建築していくものだというのは、まさしくこの例が示しているとおりなのである*2。ライプニッツやベルヌーイ、そしてオイラーにとって、それまで存在していなかった、「虚数の対数」というものが存在していることはなぜか確信されており、それへ向けて理論が構築されていくのだ。これはだから、「発明」だといってよいくらいなのである。
それから、少し細部の話になるが、複素解析の有名ないわゆる「オイラーの公式」(の特別な形)は、自然対数の底と、円周率と、虚数単位をひとつの式にまとめ、よく神秘的な「崇拝」の対象となっているが、オイラーはこれにちっとも感動などしていないし、ここには何も深い内容などないというのが正しい。オイラーが感動して「美しい発見」と呼んだのは、本書にいう「ベルヌーイの等式」だったというのは、注意すべき点かと思われる。
- 作者: 高瀬正仁
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/10/21
- メディア: 新書
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