養老孟司はおもしろい

臨床読書日記 (文春文庫)

臨床読書日記 (文春文庫)

理系の人で、これほど個性のある文体を持っている人は少ないだろう。文章に芸があって楽しい。自分とはだいぶ感性の違った人なのかなと思っていたのだが、個々の判断をみてみると、殆ど意見が一致するのはちょっと意外であり、爽快だった。背後に膨大な読書があるのは明らかであるが(濫読によって作られた文体である)、そこをあまり見せないのが著者の一種のダンディズムであり、また、ちょっと軽めだと誤解されやすいところなのかも知れない。本当は凄い人なのだけれどね。哲学を説いているようにはあまり見えないのに、中身は本当は、考え抜かれた哲学なのだ。だいたい、今では猫も杓子も「脳」だが、その脳ブームのはるか以前に脳に注目したのが著者だった。それに、著者の言っている「脳」は、例えばクオリアといったような単純な概念ではないのであって、世界を認識するためのひとつのシステムであり、哲学なのである。でなければ、例えば都市は「脳化」だというような発想が、出てくるはずがないのだ。