楽しい物理エッセイ

新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)

新 物理の散歩道〈第1集〉 (ちくま学芸文庫)

ロゲルギストはブルバキのように、或る日本の物理屋さんたちの共同のペンネームである。文庫化されて初めて読んだが、多くは日常的な、しかも学会では発表できそうもない(楽しい)現象を採り上げて、物理的に考察している。(数式はほとんどなし。)個人的に特に面白かったのを挙げると、点滴装置の流量の調節の精妙を論じた「入院また楽しからずや」とか、紙風船をぽんぽんやっていると、なぜ紙風船がふくらむのかを考察した「紙風船の謎を解く」などであろうか。「影法師のコブ」あたりは、(物理的というよりは)幾何学的な考察の妙で、なかなか難解だ。
 いや、これはいいね。考えることの楽しさがよくわかる本だ。解説者のいうとおり、話題がほぼ「古典物理学」の範囲に納まっているのもいい。実験も古典的だ。今では何でもコンピューター・シミュレーションであるが、これは味気ないこと夥しいのである。こればかりやっていると、自分の頭で考えることが疎かになりがちだが、その弊害は既に深刻なのではないか。おっと、深刻(?)ぶるのはやめましょう。とにもかくにも、楽しい本ですから。