経済論は事実に基づいて、論理的に、というわけで本書

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)

日本経済復活 一番かんたんな方法 (光文社新書 443)

宮崎哲弥が入っているというわけで買ってみたが、これは素晴しい本だ。題名の通り、いま日本の経済をよくするために一番大事なことが指摘されている。それはシンプル、すなわち「デフレからの脱却」だ。(為替が円安に誘導されれば、さらによい。)なぜデフレがいけないか。例えばデフレよりもゆるい条件、経済成長が0%の場合で考えてみると、このとき、企業が努力して2%生産性を良くしたとする。この場合、成長が0だと、社員の給料を2%カットするか、2%の労働力をカット(すなわち解雇)するしかない*1、という単純なことなのだ*2。また、デフレは金持ちや、賃金が下がらない労働をしている人には(時が経つと貨幣価値が上がるので)有利だが、不安定な労働をしている人には、皺寄せがそこに行って、圧倒的に不利な状況なのでもある。
 では、デフレからの脱却には、何が最も効果的か。結局それは、インフレ・ターゲット政策だという。そして、貨幣供給量を増やす。周知の通り、これはマスコミなどで評判が悪いのだが、マスコミが怖れるようなハイパー・インフレーションは、起きっこないらしい。
 本書の素晴しいところは、論者の役割分担にもある。専門家の勝間、飯田は、(当り前のことだが)事実に基づいて、論理的かつシンプルに語っており、宮崎が、専門的な意見も咀嚼しつつ、高所から議論を引き締めている。だから、内容は相当高度だと思うが、一般人にも理解可能な本になった。本当に、(こういう言い方はあまりしたくないのだが)日本人の「必読書」と言ってもいいくらいのものになった。
 それにしても痛感するのだが、経済学はいまや相当に進歩しているのであって、現在の状況に対しても、ある程度有効な処方箋が出せるほどになっているということである。そして、新聞の経済記者などは、驚くべきことに、(不勉強で)そういうことを知らないらしい。自分も、新聞などでは、印象論ばかりで、こうした論理的で事実に基づいた議論は、読んだことがなかった。しかし、素人でも、経済学の初歩の教科書くらいは、読んでおかなければならない時代なのかも知れない。

*1:もちろん、日本全体で考えて、ということではあるが。

*2:だから、2%のデフレだと、何もしなければ、すべての人の給料を2%カットするのは難しいので、2%の人の給料を0にする、すなわち解雇するしかない。これが、弱者に皺寄せがいく構造のひとつである。