現代に生きるチェーホフ

六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)

六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)

チェーホフの短篇は前から好きだったが、本書所収の、著名な「六号病棟(六号室)」「退屈な話」は傑作中の傑作だ。正直言ってチェーホフは、ドストエフスキートルストイよりも、今の世の中に対し、衝撃力をもっているのではないかと思う。妙に老成した、人生などわかりきっていると思っているような生悟りの現代人に、これらの作品を突きつけてみたい衝動に駆られるのだ。自意識過剰になるなら、ここまでやってほしいものだが、なかなか、そんじょそこらの力では、チェーホフの足許にも及ぶまい。もし現代にチェーホフがいたら、どう書いただろうと想像するのは、決して意義のないことではないだろう。
 内容については一切書かなかったが、カノン(古典)であるから、その必要もないだろう。取りあえず読め、という感じである。それから、松本裕の翻訳の良さも、特筆しておこう。