舞城王太郎と感覚の麻痺

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

うーん、これはどう云ったものか。まず、才能は明らか。しかし、作者お得意の暴力として、ここでもあっさりと人が殺されてしまうが、特にインパクトはあまりない。これはこちらの感覚が麻痺しているというよりは、作者の方が麻痺しているのだ。外界から閉ざされた場所(ここでは山の中)におけるインモラリティは、確かにカニバリズムを導入して、すごそうではあるが、これもCGによる映画みたいなものに過ぎない。そう、マンディアルグの『城の中のイギリス人』にはとても及ばない。キリスト教の伝統がないので、涜聖のインパクトもないのだ。だから、却って止めどもなくなってしまう。でも、細部を見ると、本書独特の擬音語表記など、作者の才能がよくあらわれているところもある。女性の体毛を剃っていくシーンなど、さほどエロティックではないけれども、fetishistic で、息を呑ませるところはさすがだ。
 いまフィクションに暴力は溢れきっているが、舞城の暴力はまだ身に沁むほうだ。現実の生が安全球体に閉じ込められている以上、想像力の対抗として、このように暴力が氾濫するのは必然とも云える。それは、性欲を満たすのと同じことである。舞城はその中では優等生だが、それでも麻痺してしまうのかなあと思わざるを得ない。それは果してよいことなのか、どうか。正直言ってわからないのである。
城の中のイギリス人 (白水Uブックス (66))

城の中のイギリス人 (白水Uブックス (66))

閉ざされた城の中で語る英吉利人 (中公文庫)

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