トルクァート・タッソの『エルサレム解放』
- 作者: トルクァート・タッソ,A.ジュリアーニ,鷲平京子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/04/17
- メディア: 文庫
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編者であるジュリアーニの要約を挟みながら、本文を読んでいくという本書の形式は、確かに筋をわかりやすくはしているが、正直言って要約が邪魔だ。本文に没入していきたいところで、解説があって醒めてしまう。これも、全訳でないことの弊害だ。
それから訳者は、本書はキリスト教の勝利の物語ではあるが、タッソの内では、「キリスト教の唯一神も、むろんイスラム教の唯一神も存在せず、唯一の『天』が、無情なままに、限りなく拡がっているだけなのではないか」などと云っているが、果してそんなものだろうかと思う。いかにキリスト教文学の大古典だとはいえ、イスラム教徒が本書を読めば、どういう気持ちになるかは明らかなことだろう。難しい問題だが、こういうものが書かれた事実は事実として、認めねばならないのではなかろうか。
ネガティヴなことも多く書いたが、これも本書のすばらしさ故である。是非とも手にとって頂きたい名著名訳だ。