もし田村隆一がブログを書いていたら

詩人のノート (講談社文芸文庫)

詩人のノート (講談社文芸文庫)

まあエッセイ集ということになるのだろうが、実は読み始めて直ぐ、「ブログの日記みたいだ」と思った。でも、これほどの質のブログは滅多になく(当ブログも例外ではない)、これなら(当り前だが)銭が取れますけれども。各回の冒頭に、著者のやそうでないのや、詩が引用されているものが多いが、これがまたいい詩がいっぱいで、その後に続く、軽いタッチの洒落た文章ともども、まことに堪能させられる。自分は詩は苦手なのだけれど、こういう詩ならどれだけでも読んでいたい気にさせられる。実際、詩を愚直に解説してみせるようなことは殆どないのに、詩を楽しむやり方がおのずと身につくようなところがある。まあでも、効能はいい。もういちど強調しておこう、この洒落た軽さは絶妙で、例えばエッセイの名手といわれるM氏などの、人工的な、拵え物の軽さとは明確に一線を画すものなのだ。そこら辺がシティ・ボーイの洗練で、「田舎者」(痛い言葉だ)には出せない味なのだと思う*1
 しかし出版社は、どうして田村隆一を文庫にしないのだろう。変だね。

*1:例えば、著者がときどき用いる「…なのさ」という語尾の使い方のうまさは無類だ。この語尾をうまく使った例は、余人ではほとんど思い出せないほどである。