チンパンジーは人間に近種なることについて

進化の隣人 ヒトとチンパンジー (岩波新書)

進化の隣人 ヒトとチンパンジー (岩波新書)

ちょっと古い本だが、これは面白い。著者は、「天才チンパンジー」などと云われて、良く知られている「アイ」のパートナー(?)研究者である。チンパンジーの優れた知性の話も面白いが、何といっても感銘を受けたのは、チンパンジー母子の情愛の深さである。だから、死別の話が悲しい。母が亡くなって鬱になり、そのまま衰弱死してしまった子や、逆に子供が死んでも死体を離さず、ミイラ化しても抱き続けた母の話など、思わず涙腺が緩まずにはいられない。まるで人間みたい、ある意味人間以上なのだが、実際にDNAを調べてわかったのは、チンパンジーはapeで、猿monkeyと英語で区別するのは正しく、人間も系統的にはape(尻尾のないサル)の仲間だというのだ。人間やチンパンジーは、monkeyからは遠くて、お互いにきわめて近種なのである。(そのせいか、チンパンジーの子供の写真、殊に笑い顔のそれは、じつに可愛いらしい。)だから、チンパンジーを調べるということは、人間というものを理解するにも有効なのだ、といえるわけだ。例えばチンパンジーは驚くべきことに、鏡に映った自分の姿を、きちんと「自分」だと理解できるという。(「アイ」などは、鏡を使って歯の点検(!)すらするのだ。)これは、「鏡像段階」などと口走っている連中らも、驚いていい事実ではあるまいか。