アンディ・ウォーホルの芸術

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

2000年に名古屋で開かれた回顧展を観にいっているので、ウォーホルと向き合うのは久しぶりである。そのときも、また本書を読み終えてみても、ウォーホルの芸術(「アート」と呼ぶべきだろうか)に対する感情はアンビバレントなままだ。現代を征服してしまった「ポップ・アート」の衝撃と、内容の空疎さをどう折り合いをつけるか、ということである。いや、「内容の空疎さ」といっても、いま手元にある展覧会カタログを見なくとも、ポップな作品はすぐ脳裏に浮かべられるくらいなのだから、単純に空疎だとはいえないかもしれない。ただ、ウォーホル以降、現代芸術の一分野となった、ゴミのように内容のない「ポップ・アート」の洪水の元締めとして、問題がないとはいえなかったのではないか、くらいの意味である。しかし、それはそれとして、本書は自分には教育的だった。現象として、思想として、やはりウォーホルはおもしろいのである。本書は、一筋縄ではいかない、多面体としてのウォーホルを描き出しており、彼の隠れた政治性、カトリック教徒としての信仰、死と惨劇への深い関心等々、知らないことが多かった。とりわけ彼の「死と惨禍」のシリーズは、実物も見ているにもかかわらず、自分にはまったくの盲点だった。ウォーホルは単にアートをビジネスと捉えるだけでなく、自分の中の不透明なものに対して、目をそむけないだけの深さがあったということである。そこが、いまでも彼を見る価値のあるという、根拠になっていると思われるのだ。