アーサー・ケストラーの傑作小説

真昼の暗黒 (岩波文庫)

真昼の暗黒 (岩波文庫)

一気に読了、圧倒的な読後感だ。まずはスターリニズム批判の小説というところであり、ソ連批判としても出色のものだろうが、自分は心理小説として読んだ。党の古参の指導者である主人公(モデルはブハーリンらしい)が、反党分子として逮捕され、尋問に対し、自ら求めたような奇妙な屈服をしてゆく様子が克明に書かれていて、尋問者と被尋問者の間の駆け引きは、読みながら佐藤優の傑作『国家の罠』が連想されて仕方がなかった。芸がない話だが、とにかく、読んでみて下さいといいたい。
 アーサー・ケストラーというと、優れた科学ジャーナリストである、というか、筆も立つ重要な科学哲学者である同名氏が、自分にはすぐに連想されるのだが、迂闊なことに、この科学哲学者は、『真昼の暗黒』の小説家と同一人物であったのだ。何ともはや、まったく同姓同名の別人だと思い込んでいたのだが、これだけ異なる分野で傑出した仕事をしているのだから、こちらのせいばかりでもないだろう。だいたい、科学哲学者としての著作の解説などに、本書についての記載はあったのだろうか。恐らくあったのだろうが、読んでもすっかり忘れていたのだな。ダーウィニズム批判として、『機械の中の幽霊』などは、第一級の著作である。
 なお、本書は英文学の古典として扱われているが、実は英訳本なのだというのも、不思議な事実である。そのあたりの経緯は、訳者あとがきを参照されたい。
機械の中の幽霊 (ちくま学芸文庫)

機械の中の幽霊 (ちくま学芸文庫)

サンバガエルの謎―獲得形質は遺伝するか (岩波現代文庫)

サンバガエルの謎―獲得形質は遺伝するか (岩波現代文庫)

ヨハネス・ケプラー―近代宇宙観の夜明け (ちくま学芸文庫)

ヨハネス・ケプラー―近代宇宙観の夜明け (ちくま学芸文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)