日本史に対する女性からの視点

著者の本は、『外法と愛法の中世』や『百鬼夜行の見える都市』などが個人的に既読だが、ともに日本史の本として、怪しいものに惹かれているというか、とてもユニークで刺激的なものだった。本書は、日本史にフェミニズムの視線が入っているという点、これまた刺激的である。といっても、イデオロギーに従属したようなチャチな本ではない。まあ、気になるといえば、大地母神という想像力、ユングのいう<グレート・マザー>元型を、男性というジェンダーの捏造したものだと断じる点はあるが、これは著者の勇み足だと思う。「どうして子供が増えることに価値が見いだされたかなんて、なぜ人間が存在するのかという問いと同じで、誰もちゃんと答えられないのではないか?」とあるが、だからこそ存在論は何千年も前から存在するのだし、大地母神もエロティシズムの作動原理から自然に出てくるもので、(少なくとも男性にとっては)当り前の想像力である*1
 しかし、繰り返すが、本書の面白さはイデオロギーにはない。例えば、斎宮・斎院の姦通(これは伊勢神宮の機能を考える上で、かなり光を当てるのではないか)だとか、「鎌倉物語」(というものが積極的に使われた本というのは、素人の管見では初めて見た)における「結婚しない女たち」だとか、女性の視点を通すとこう見えるか、という感じで、近代的な魅力的な散文でもって日本史を掘り起こしている。これを見ても、歴史研究に多く女性が携わるのは、明らかによいことと思われるのだ。
 最後に蛇足を。絵巻物のポルノグラフィーとして、『小柴垣草紙』というのがあるというのは、初めて知った。江戸時代の模写本しか現存しないらしいが、原本はもっと古いもので、このようなジャンルのものとしては、きわめて珍しいものだ。これはちょっと見てみたいような気もする。
百鬼夜行の見える都市 (ちくま学芸文庫)

百鬼夜行の見える都市 (ちくま学芸文庫)

*1:しかし、女性にはこうした想像力は自明のものではないのだろうか。ちょっと信じられないが。これはジェンダー以前の、エロティシズムの問題だと思う。まあ、ユング批判だとか、「大地母神」がイデオロギーとして使われているというのなら、わからないでもないが。