ブーレーズ指揮のマーラー『子供の不思議な角笛』と第十番アダージョ

Mahler: Des Knaben Wunderhorn / Adagio From Symphony No 10

Mahler: Des Knaben Wunderhorn / Adagio From Symphony No 10

マーラー最初期の歌曲集『子供の不思議な角笛』と、絶筆となった交響曲第十番の第一楽章という、最初と最後を繋げた興味深いアルバムを、ブーレーズが録音した。恐らくこれで、ブーレーズマーラー・チクルスは完成である。
 まず、『子供の不思議な角笛』を、英対訳を片手にじっくり聴いてみた。上にも書いたように、この曲はマーラーの最初期のものであるが、この頃からマーラーは、既にオーケストレーションが至極立体的であり、メロディも含めてなんとも魅力的である。まさしく、交響曲第四番あたりまでの初期マーラーの特徴がよく出ていると云えよう。実際、「魚に説教するパドゥアの聖アントニウス」が、第二番の第三楽章に忠実に引用されていることからも、このことはわかる。また、歌曲集と同名の題をもつ詩集からのテクストも、興味をそそられる。意味が通じるようで通じないというか、不思議な魅力を湛えたもので、マーラーがとても愛したものだ。ナンセンスさに、どこか死の影があるようにも感じる。ブーレーズの指揮は繊細でありつつ色彩感が豊かなもので、コントラストの付け方も申し分ない。歌曲集の楽しみが充分に堪能できるもので、別のディスクに所収の「リュッケルト歌曲集」がさらに聴きたくなったほど。
 ここから第十番のアダージョへ飛ぶと、これまた違った世界だ。明らかに第九番に通底する要素がある一方で、聴いたこともない新たな展開もある。耽美的なとても美しい弦楽奏などは前者に通じ、わかりやすいとも云えようが、後者に対応するのは、異様ともいえる奇妙さと美が混淆したもので、難解にも聞える。思うに、この難解な美が曲者で、第二楽章以降はスケッチされただけなのが惜しく、補筆の筆を加える者が絶えないのも、わかるのである。ブーレーズの音楽づくりはこちらもすばらしく、明晰さと耽美が両立した名演だ。ブーレーズといえば誰しもクールな音楽づくりを思い浮かべるだろうが、このディスクなどを聴いてもわかるように、決して無味乾燥なものではない。確かに時には線が細いように感じることはあるが、ここではそれもない。すべてをひっくるめて、いい演奏だと思う。