よき生と死を得るための、素晴しい本

チベットの生と死の書 (講談社+α文庫)

チベットの生と死の書 (講談社+α文庫)

このような素晴しい書物を称揚するのに、自分の力がまったく足りないことを痛感せざるを得ません。本書はチベット仏教の高僧が、生と死に関するチベット仏教の叡知の初歩を、惜しみなく紹介したものです。このように書くと、本書を何かトンデモ本のように誤解する人が出てくるかもしれませんし、悪意を以って読めば、そうならないとも限りません。本書から何を得るかは、我々のリテラシーに拠るでしょう。
 特筆しておきたいのは、いま何らかの形で死に向かい合わねばならない人には、本書は決定的な現実的知恵を授けてもらえる大きな可能性があることです。我々の現代の生活の中には、死の占める位置は極小になっていると云わざるを得ないのですが、当り前の話ではありますけれども、誰でも遅かれ早かれ、必ず死なねばならないのです。本当にそれは、早いか遅いかの違いに過ぎないのです。そして本書が教えてくれるのは、死は「無」ではないことです。死んでしまえばすべては終り、ではないというのです。このあたりは、納得できない人もいることでしょうが、それについては敢て何もいいません。興味深いことに、いまではかなり一般に認められてきたと思われる「臨死体験」ですが、チベット仏教の教えによれば、臨死体験はどうやら本当の死の体験ではなく、その本当に皮相な部分に過ぎないようです。臨死体験をすると死が怖くなくなるといいますが、その後の心の変容が大切なのであって、それを死の体験と考えるのは、どうもよくないことのようです。
 我々は歳をとるごとに、死への意識が強くなってくるのが普通でしょう。健康な人で死のことをほとんど思わない人でも、本書を読めば気が引き締まるのではないでしょうか。この本はたんに「死」の本ではなく、「生と死」の本であるのですが、例えば悟りだの何のといっても、実際本書にはそういうことも書いてあるのですが、結局は死のための準備と考えるのが大切なのだと思います。本書から尽きせぬ知恵を汲み出されんことを。


※追記 下記の書もたやすく入手できます。参考までに。

下記の書は、中沢新一の師にあたる人の自伝です。これも素晴しい本です。
知恵の遙かな頂

知恵の遙かな頂