現代に生きる禅

笑う禅僧─ 「公案」と悟り (講談社現代新書)

笑う禅僧─ 「公案」と悟り (講談社現代新書)

新書でさらりと刊行されたが、大変な書である。こんな禅師が、現代に存在するのだと思わされた。今の日本仏教がどうなっているのか知らないが、「今」という時を、同時代として生きている仏教というものはないのだろうかと、前々から思っていた。本書は、それに答えるひとつのあり方を示したと云える。勿論、本書を読んで、特別に変ったこともない、という人もいるだろうが、却ってそういう人は幸せかもしれない。本書にもあるが、本当の禅は劇薬に等しい。必要のない人が読めば、却って底知れぬ心の世界に踏み迷ってしまうかも知れないのだ。
 本書を読むと、禅の世界というのは、まったく厳しいこと限りないのがわかる。安易なものではない。「見性」自体、それで悟りだと思ったらお仕舞いなのだ。
 そうそう、いま個人的に、田辺元の『懺悔道としての哲学』を並行して読んでいるのだが、本書と共鳴しあうところがあって興味深い。いずれにせよ、さり気なく書かれているが、汲み尽くすことのない、深い書物だと思う。迷妄に苦しんでいる人には、本書が痛棒になるかも知れない。
懺悔道としての哲学――田辺元哲学選II (岩波文庫)

懺悔道としての哲学――田辺元哲学選II (岩波文庫)