これこそ現代における文学ではないか・絲山秋子

沖で待つ (文春文庫)

沖で待つ (文春文庫)

著者はいま自分のいちばんしっくりくる作家だ。でも、しょっちゅう読んでいるわけではない。なぜなら、読みつくすのが勿体ないし、読んで感銘を受けて危険なことはわかっているから。著者の小説には、いつも何ともぶっきらぼうな女性(なんとなく著者の自己イメージが投影されていそうだ)が出てくるが、彼女は根底では、とても人と人生を愛しているのだと思う。そして本書も、とりわけ表題作が感動的だ。本当の意味の大人にしか書けない小説だし(これを読んでいると、自分は人生経験というやつをしてきたのだろうかと溜息をつきたくなる)、云うのも気恥かしい常套句だが、本当に生きているものにとっては、人生はやはり素晴しいのだと思わせられる。最後のページでは、つい目頭が熱くなってしまった。惹句にもあるとおり、すべての働く人たちのために、どうぞ。
※著者の本については、このブログでも前に何回か書きました。いつも感動させられるので、書いているのは同じことばかりですが。